トータル・リコール(1990)の解説・評価・レビュー

Total Recall SF(近未来)
SF(近未来)アクション(その他)

火星に眠る真実、自分探しのSF大冒険! ---

1990年公開の『トータル・リコール』(原題:Total Recall)は、ポール・バーホーベン監督によるSFアクション映画で、アーノルド・シュワルツェネッガーが主演。記憶の操作と現実の境界をテーマにしたスリリングな物語が展開される。
物語は、建設作業員のダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)が、火星旅行の記憶を植え付けるサービス「リコール社」を訪れたことをきっかけに、自身の過去に隠された衝撃の真実を知ることになる。しかし、それが本当に現実なのか、それとも作られた記憶なのか——クエイドは次第に混乱の渦へと巻き込まれていく。

本作は、派手なアクションと独創的な未来描写が融合したエンターテインメント作品であり、特に火星を舞台としたシーンや変幻自在なプロットが話題となった。また、バーホーベン監督ならではの過激なバイオレンス描写やブラックユーモアも満載で、90年代SF映画の名作として記憶される。
1991年のアカデミー賞では視覚効果賞を受賞。シュワルツェネッガーの代表作のひとつとして現在も根強い人気を誇り、2012年にはコリン・ファレル主演でリメイクも制作された。

『トータル・リコール』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


西暦2084年。地球で平凡な建設作業員として暮らすダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、毎晩のように火星の夢を見る。不思議な既視感を覚えた彼は、人工的に記憶を植え付ける「リコール社」を訪れ、火星でスパイになる体験を購入しようとする。しかし、施術の途中でトラブルが発生し、クエイドは突然暴れ出す。彼の記憶には、すでに火星での過去が埋め込まれていたのだった。

その日を境に、クエイドの周囲は一変する。妻ローリー(シャロン・ストーン)は突如として襲いかかり、彼を監視していたことを告白。さらに正体不明の男たちに命を狙われ、逃亡を余儀なくされる。追手から逃れたクエイドは、謎のメッセージに導かれ、かつての自分が秘密組織と関わっていた可能性を知る。

しかし、クエイドの過去は謎に包まれたまま。自分は一体何者なのか? 記憶は本物なのか、それとも植え付けられた幻想なのか? そして、火星の秘密とは何なのか? 現実と虚構が入り混じる中、クエイドは自らの運命に立ち向かう。

『トータル・リコール』の監督・主要キャスト

  • ポール・バーホーベン(52)監督
  • アーノルド・シュワルツェネッガー(42) ダグラス・クエイド / カール・ハウザー
  • シャロン・ストーン(32) ローリー・クエイド
  • レイチェル・ティコティン(31) メラーナ
  • ロニー・コックス(52) ヴィロス・コーヘイゲン
  • マイケル・アイアンサイド(36) リクター
  • マーシャル・ベル(48) ジョージ / クアトー
  • メル・ジョンソン・Jr(34) ベニー

(年齢は映画公開当時のもの)

『トータル・リコール』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 5.0 ★★★★★
・大切な人と観たい 2.0 ★★☆☆☆
・ひとりでじっくり 3.0 ★★★☆☆
・「記憶」と「現実」の境界 5.0 ★★★★★
・印象的なキャラ 4.0 ★★★★☆

ポジティブ評価

『トータル・リコール』は、SFアクション映画の金字塔として語り継がれ、今なお強烈なインパクトを持つ。未来都市や火星の荒廃した風景、そして奇抜なキャラクターデザインが1991年のアカデミー視覚効果賞の受賞に繋がる。
シュワルツェネッガーのアクションを軸に置きつつ、ストーリー面では、記憶と現実の境界を問うミステリー要素が強い。視聴者は主人公クエイドと共に「見ているものは現実なのか、それとも植え付けられた幻想なのか」という疑問を抱えながら物語を追うことになる。巧妙な構成が秀逸で、何度観ても新たな発見がある。

肉弾戦はもちろん、未来的な武器を駆使した銃撃戦やカーチェイスなど、シュワルツェネッガーのバトルも見どころ。シャロン・ストーン演じるローリーはただの添え物ではなく、意外なまでに戦闘能力が高く、印象的なキャラクターの一人となっている。アクションファンにとっても王道的な面白さがある。

加えて、バーホーベン監督らしいブラックユーモアと風刺も健在で、火星の独裁政権や企業の陰謀といった要素は、単なる娯楽作に終わらない社会的なメッセージを持っている。このように、ハードなアクションと知的なストーリーが融合した点が、本作をSF映画の傑作たらしめている。

『トータル・リコール』は、90年代のアクション映画としても、SF映画としても、一級品のエンターテインメント。豪快なシュワルツェネッガーのアクションと、現実と幻想が交錯するスリリングな展開を楽しめる、唯一無二の作品といえるだろう。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

2084年という近未来を舞台にしているものの、登場するファッションや小物、コンピューターのデザインは1980年代の制作当時そのまま。グロテスクな描写や手作り感のある映像表現がノスタルジーを感じさせてくれる。その古く懐かしい感じを含めて「良い」作品ではあるが、令和のいま、本気の近未来世界観を楽しみたい場合はこの作品ではなく新しい映画の視聴をお勧めする。

肝心の作品の構成については、根幹を成す「記憶と現実の境界」というテーマが興味深いものの、後半に向かうにつれてアクション重視の展開となる。概ねいつもの(そして期待通りの)シュワルツネッガー。終盤には「とりあえず爆発させて決着!」という方向に進むため、より重厚なSFを期待していた人にとっては物足りないかもしれない。エンターテインメント重視の作風である。

こぼれ話

『トータル・リコール』は当初、アーノルド・シュワルツェネッガーではなく、 パトリック・スウェイジ が起用される予定だった。さらに、監督も当初は『エイリアン』の リドリー・スコット が候補に挙がっており、もしこの組み合わせが実現していたら、全く違ったトーンの映画になっていたかもしれない。

最終的にポール・バーホーベンが監督に決まり、主演もシュワルツェネッガーに変更されたが、これはシュワルツェネッガー自身がプロジェクトに強く関与した結果だった。彼は映画会社に働きかけて自身を主演に据えるよう交渉し、さらに製作総指揮としても参加。結果として、本作はシュワルツェネッガーのアクションスターとしての魅力を最大限に引き出す作品となった。
映像にはポール・バーホーベン監督らしい ブラックユーモアが随所に散りばめられている。例えば、「リコール社」のシーンでは、カタログのように記憶を選べるシステムが登場するが、これは消費社会への風刺だという。また、未来の社会が企業によって完全に支配されている描写も、『ロボコップ』(1987)や『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)といったバーホーベン作品の特徴と共通している。

シュワルツェネッガー自身も本作を非常に気に入っており、彼の代表作の一つとして語られることが多い。2012年にはコリン・ファレル主演でリメイク版が製作されたが、ファンの間では「やっぱりシュワルツェネッガー版の方がパンチが効いている」と言われることが多い。90年代特有の荒々しいアクションと独特の世界観を楽しめる『トータル・リコール』は、今なお色褪せないSFアクションの傑作といえるだろう。

本作の特殊効果は当時としては画期的であり、 1991年のアカデミー賞視覚効果賞 を受賞している。特に、火星の赤い空や奇妙なミュータントたち、さらにはシュワルツェネッガーの顔が膨張する圧力変化のシーンなど、強烈なビジュアルが満載だった。ちなみに、火星のシーンは実際にはメキシコで撮影され、赤みがかったフィルターを使用することで独特の雰囲気を作り出した。

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